Windows 11には強力な仮想化機能「Hyper-V」が搭載されています。
この機能を使えば、1台のパソコン上で複数のオペレーティングシステムを同時に動かすことが可能になります。
本記事では、Hyper-Vの基本から設定方法、活用法を解説します。
開発環境の構築やテスト環境の作成など、様々な用途に役立つHyper-Vの特徴を紹介します。
※Hyper-Vは標準ではWindows 11 Proエディション以上でのみ利用可能です。HomeエディションではProエディションへのアップグレードが必要になります。
Hyper-Vとは?
Hyper-Vは、Microsoftが開発したハイパーバイザー型の仮想化技術です。ハイパーバイザーとは、物理マシン上に複数の仮想マシンを作成し管理するソフトウェアのことです。Windows 8から導入され、Windows 11ではさらに機能が強化されています。
Hyper-Vを使用すると、1台のパソコン上で複数のオペレーティングシステム(Windows、Linux、その他のOS)を同時に動作させることができます。それぞれの仮想マシンは独立して動作するため、メインのシステムに影響を与えることなく、様々なOSやソフトウェアをテストできます。
Hyper-Vのメリットとデメリット
メリット
- 1台のパソコンで複数のOSが利用でき、開発環境やテスト環境を構築できる
- 物理マシンを増やさずにリソースを有効活用できるため、ハードウェアコストを削減できる
- 古いOSや異なるOSにしか対応していないアプリケーションを安全に利用できる
- 仮想マシンのスナップショット機能で、システム状態を保存・復元できる
- Windows 11では、AMDプラットフォームでのNested Hyper-V(入れ子構造の仮想化)がサポートされるようになった
デメリット
- パソコンの性能によっては、仮想マシンが期待するパフォーマンスを発揮できない場合がある
- バックアップを適切に取っていないと、ホストマシンの故障時に仮想マシン内のデータも失われる
- 仮想マシンにインストールするOSによっては、別途ライセンス(プロダクトキー)が必要
- Windows 11 HomeエディションではHyper-Vが標準で利用できない(ProまたはEnterprise、Educationエディションが必要)
Hyper-Vのシステム要件
Hyper-Vを利用するには、以下のシステム要件を満たす必要があります。
- Windows 11 Pro、Enterprise、またはEducationエディション(Homeエディションでは標準利用不可)
- 64ビットプロセッサ(Intel VT-xまたはAMD-Vに対応したもの)
- 仮想化技術(Intel VT-xまたはAMD-V)がBIOS/UEFIで有効化されていること
- SLAT(Second Level Address Translation)対応プロセッサ
- 最低4GB以上のRAM(仮想マシンに割り当てるメモリを考慮するとそれ以上が望ましい)
- 仮想マシン用のストレージ容量(Windows 11を仮想マシンにインストールする場合は64GB以上)
Windows 11でHyper-Vを有効化する手順
Windows 11のHyper-Vは、デフォルトでは無効になっています。以下の手順で有効化しましょう。
1. 仮想化機能が有効になっているか確認する
まずはパソコンの仮想化機能が有効になっているか確認します。
- タスクバーを右クリックし、「タスクマネージャー」を選択
- 「パフォーマンス」タブをクリック
- 「CPU」を選択し、「仮想化」が「有効」になっていることを確認
もし「無効」と表示されている場合は、パソコンを再起動してBIOS/UEFI設定画面を開き、仮想化技術(Intel VT-x/VMX、AMD-V/SVMなど)を有効にする必要があります。
2. Hyper-Vを有効化する
仮想化機能が有効になっていることを確認したら、Hyper-Vを有効化します。
- Windows検索ボックスに「Windowsの機能」と入力し、「Windowsの機能の有効化または無効化」を選択
- 「Hyper-V」のチェックボックスにチェックを入れる(Hyper-Vプラットフォーム、Hyper-V管理ツールの両方にチェックを入れる)
- 「OK」をクリックし、必要なファイルのインストールを待つ
- インストールが完了したら、指示に従ってパソコンを再起動
3. インストールの確認
再起動後、Hyper-Vが正しくインストールされたことを確認します。
- スタートメニューを開き、「すべてのアプリ」をクリック
- 「Windowsツール」を選択
- 「Hyper-Vマネージャー」と「Hyper-Vクイック作成」が表示されていれば、インストール成功
Hyper-Vで仮想マシンを作成する方法
Hyper-Vのインストールが完了したら、実際に仮想マシンを作成してみましょう。Windows 11を例に、手順を説明します。
1. Windows 11のISOファイルを準備する
まずは、インストールするOSのISOファイルを準備します。Windows 11の場合は、Microsoftの公式サイトからダウンロードできます。
- Microsoft公式サイト(https://www.microsoft.com/ja-jp/software-download/windows11)(「Windows 11 のダウンロード」でGoogle検索)にアクセス
- 「x64 デバイス用 Windows 11 ディスク イメージ (ISO) をダウンロードする」を選択
- 「ダウンロードを選択」で「Windows 11 (x64 デバイス用のマルチエディション ISO)」を選択して、その下の「今すぐダウンロード」をクリック
- 言語を選択して「確認」をクリック
- 「64-bit ダウンロード」をクリックしてISOファイルをダウンロード
2. Hyper-Vマネージャーを起動する
- スタートメニューから「Windowsツール」→「Hyper-Vマネージャー」を選択
- Hyper-Vマネージャーが起動したら、左側のサーバー名(自分のパソコン名)を選択
3. 仮想マシンを作成する
- 「操作」メニューから「新規」→「仮想マシン」を選択
- 「仮想マシンの新規作成ウィザード」が起動するので「次へ」をクリック
- 仮想マシンの名前を入力(例:「Windows 11」)して「次へ」をクリック
- 世代の指定で「第2世代」を選択(Windows 11には第2世代が必要)して「次へ」をクリック
- メモリを割り当てる(Windows 11の場合は4GB/4096MB以上を推奨)して「次へ」をクリック
- ネットワーク構成を選択(通常はデフォルトのままで良い)して「次へ」をクリック
- 仮想ハードディスクを作成(Windows 11の場合は64GB以上を推奨)して「次へ」をクリック
- インストールオプションで「ISOイメージファイルからオペレーティングシステムをインストールする」を選択し、準備したISOファイルを指定して「次へ」をクリック
- 設定内容を確認し、「完了」をクリック
4. Windows 11のインストール要件に合わせて仮想マシンを設定する
Windows 11を仮想マシンにインストールするには、追加の設定が必要です。
- 作成した仮想マシンを右クリックして「設定」を選択
- 「セキュリティ」設定で「トラステッドプラットフォームモジュール」を有効にする
- 「プロセッサ」設定で「仮想プロセッサの数」を2以上に設定(Windows 11は2コア以上必要)
- 「OK」をクリックして設定を保存
5. 仮想マシンを起動してWindows 11をインストールする
- 作成した仮想マシンを選択し、右側の「接続」をクリック
- 仮想マシンのウィンドウが開いたら、「起動」ボタンをクリック
- 画面の指示に従ってWindows 11のインストールを進める
Hyper-Vの便利な機能
チェックポイント機能
チェックポイント機能は、仮想マシンの現在の状態を保存し、後でその状態に戻ることができる機能です。例えば、ソフトウェアのインストールや設定変更の前に仮想マシンの状態を保存しておけば、問題が発生した場合に元の状態に戻すことができます。
- チェックポイントを作成するには、仮想マシンを選択し、「チェックポイント」ボタンをクリック
- チェックポイントに名前を付けて保存
- チェックポイントに戻すには、チェックポイントを右クリックして「適用」を選択
動的メモリ
動的メモリ機能を使用すると、仮想マシンに割り当てるメモリを動的に調整できます。仮想マシンの負荷に応じてメモリ割り当てを変更するため、リソースを効率的に使用できます。
- 仮想マシンの設定で「メモリ」を選択
- 「動的メモリを有効にする」にチェックを入れる
- 開始時のメモリ量、最小メモリ量、最大メモリ量を設定
仮想スイッチ
仮想スイッチを使用すると、仮想マシン間のネットワーク接続や、仮想マシンと物理ネットワークとの接続を構成できます。
- Hyper-Vマネージャーの「操作」メニューから「仮想スイッチマネージャー」を選択
- 仮想スイッチの種類(外部、内部、プライベート)を選択して作成
- 仮想マシンの設定で「ネットワークアダプター」を選択し、作成した仮想スイッチを指定
Hyper-Vの活用例
開発環境の構築
プログラマーやWeb開発者は、異なる環境でのテストや開発のためにHyper-Vを活用できます。例えば、異なるバージョンのWindows、LinuxディストリビューションなどのOSを仮想マシンとして実行し、クロスプラットフォーム開発を効率化できます。
ソフトウェアのテスト
新しいソフトウェアやアプリケーションをインストールする前に、仮想マシン上でテストすることで、メインシステムへの影響を心配せずに安全に試すことができます。問題が発生しても、チェックポイント機能を使って元の状態に戻せます。
レガシーシステムの運用
サポートが終了した古いOSやソフトウェアを、セキュリティリスクを最小限に抑えながら利用できます。例えば、業務上必要な古いアプリケーションがある場合、それに対応したOSを仮想マシンで動かすことで、最新のハードウェアでも利用可能になります。
Nested Hyper-V(入れ子の仮想化)
Windows 11では、AMDプラットフォームでもNested Hyper-Vがサポートされるようになりました。これにより、仮想マシン内でさらに仮想マシンを作成することが可能になり、仮想化環境のテストやトレーニングに活用できます。
よくあるトラブルと解決法
仮想マシンが起動しない
以下の点を確認してください:
- BIOS/UEFIで仮想化機能が有効になっているか
- 仮想マシンの設定(メモリ、ストレージ、プロセッサ数など)が適切か
- Windows 11をインストールする場合は、TPMが有効になっているか
パフォーマンスが低い
仮想マシンのパフォーマンスを向上させるには:
- 仮想マシンに割り当てるリソース(CPU、メモリ)を増やす
- 不要な仮想マシンを停止して、リソースを解放する
- 仮想ハードディスクを最適化する
- ホストマシンのディスクの空き容量を確保する
ネットワーク接続の問題
ネットワーク接続に問題がある場合:
- 仮想スイッチの設定を確認する
- ファイアウォールの設定を確認する
- 仮想マシンのネットワークアダプターが正しく構成されているか確認する
拡張セッションモードが機能しない
Hyper-Vの拡張セッションモードに問題がある場合:
- ホストの設定で拡張セッションモードが有効になっているか確認
- 拡張セッションモードをサポートしているゲストOSを使用しているか確認(Windows系OSが必要)
- ゲストOS内で拡張セッション用のサービスが実行されているか確認
まとめ
Windows 11のHyper-Vは、1台のパソコンで複数のOSを動かすための仮想化ツールです。開発環境の構築、ソフトウェアのテスト、レガシーシステムの運用など、様々な用途に活用できます。